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不道徳教育講座

1959年、日活、三島由紀夫原作、窪田篤人脚本、西河克己脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

タキシード姿の三島由紀夫が登場し、観客に解説する。

「道徳とは檻の事である。では不道徳とは何か?これである」…と、鍵を出してみせる。

殺人以外の犯罪は全てやり尽くしたと言う男、藤原良助(大坂志郎)が、2年間のムショ暮しから出所してくる。

それを待ち受けて、刑務所の前で張っていたのは、かつて、藤原に騙されて金を奪われた二人組(植村謙二郎、佐野浅夫)。

ところが、刑務所の門を出た藤原は、彼に騙されてもなお、彼を慕い続ける女たちに囲まれてしまう。

二人組に気づいた藤原は、この混乱の乗じて、二人組の車を奪い、逃走してしまう。

やがて、その藤原が乗ったと思しき、機関車に潜り込んだ二人組は、さっそく藤原を探し出すが、さっそく食堂車で、優雅に食事をしている眼鏡をかけた藤原らしき男を発見する。

その男のテーブルには、女優の大月麗子(月丘夢路)が相席するが、男は無関心。

そんな様子を見ていたもう一人の男が扉の向こうにいた。

変装名人の本物の藤原良助本人であった。

その頃、列車が向っていた山城市では、街の有力者たちが揃って、間もなく到着する文政次官、相良文平をいかに歓迎するかを相談しあっていた。

何しろ、その相良に、道徳モデル都市の御墨付きをもらえば、1000万の補助金が国からもらえると言う事なので、何としてでも、この街の印象を良くしておかねばならない。

かくして、次官が街に滞在中は、芸者など風俗関係の営業や、淫らな映画の上映等は一切禁止と言う事に決まる。

一方、列車内の寝台では、麗子のベッドの上で寝ようとしていた相良が、藤原から頭を殴られて気絶している間に、衣装をそっくり取り替えられていた。

相良に成り済ました藤原は、相良本人の身体をトイレの所に引きずっていき、ちょうど現れた二人組に押し付ける形で、自分はトイレの中に隠れる。

かくして、気絶したままの相良は、二人組に拉致されて列車を降りてしまい、翌朝、すっかり、相良になったつもりの藤原は、麗子のカバンを持ってやる等余裕を見せながら、山城駅に到着するのであった。

ところが、駅では、相良を待ち受ける大勢の市民や反対派のデモ隊で溢れていた為、慌てた藤原は、麗子のカバンを自分のと間違えた事も気づかず、列車の反対側から逃げ出してしまう。

そんな騒ぎとは無関係なのが、役所の戸籍係りに勤めている朝吹圭一(長門裕之)、彼は自分の事を無類の女たらしだと自慢げに周囲には吹聴していたが、実は生来の臆病な夢想家であり、身近にいる秘書課のたか子に恋の告白さえ出来ない情けない男であった。

そんな圭一の元に、校長をやっている父親(信欣三)から、今夜、自宅に泊める次官が行方不明になったので、全市に非常警戒令を発したと電話が入る。次官が、勝手に、市内視察をしているのではないかと心配しているのだ。

警察署長(天草四郎)等は、市内を巡回し、性映画の禁止や女郎屋の外に干してある下着類の取込みを命ずるのに必死だった。

市内にある喫茶「ルパン」では、店内でロカビリーをかけるのが禁止されたと聞いた女子高生らが、ふて腐れていた。

そんな店に入って来たのが、先程、駅で、反対運動を繰り広げていたデモ隊の一行。

その中の一人、桐野利夫(柳沢良一)は、女子高生の中にいた朝吹和美(清水まゆみ)を発見し嬉しそう。
彼女に気があるのだ。

そんなデモ隊グループに、頼んでないコーヒーが振舞われる。

それを驕ってくれたのは、自分達が敵とみなしていたあの文政次官相良文平ではないか。

もちろん、それは、藤原良助の変装した姿であったが、彼は、青年たちが唱えていた不道徳の話に共鳴し、自ら進んでロカビリーのレコードをかける始末。

しかし、それは、自分達を懐柔する為の芝居と感じた利夫たちは、憤然として店を飛び出し、ちょうど、前を通りかかった警察署長らによって、相良は、道徳模範家庭の見本として宿泊先となっている朝吹の家に案内される事になる。

朝吹家では、敬けんなクリスチャンである妻の美也子が賛美歌をオルガンで演奏中だったが、実は彼女が読んでいた本は「悪徳のよろこび」であり、彼女は教育家一家での退屈な毎日に飽き飽きしており、運転手の見事な肉体を妄想する毎日だったのだ。

さらに、次男で中学生の幸二(淺沼創一)は、友達と二人で、拳銃作りと言う物騒な遊びに夢中になっていた。

そこで、ようやく、カバンを女優のと間違えた事に気づいた相良は、中に入っていたストーカーまがいのファンレターを読んでいた。

夕食の時間になったので、居間に呼ばれた相良だったが、そこへ行く途中で金庫室を発見、いつもの癖で、すぐさま仕事に取りかかる。

ようやく、その相良が合流し、食事が始まろうとしていた朝吹家に、突如、教科書販売会社の社員(藤村有弘)らが、校長に道徳教本の購入を断わられた為、自分は首になった。自分から受取ったマージンの受領書が金庫に入っているのを知っているので、それを証拠として告発してやると怒鳴り込んで来る。

ところが、ゲストとして来ていた警察署長等、衆人監視の中、調べてみた金庫の中には「朝吹メモ」なる証拠品は見つからず、朝吹は面目を保つ事ができる。

しかし、本当は、朝吹メモだけではなく、15万の現金もなくなっていたのだが、誰も言い出せない。

その後、次男の康二は、中学校の授業参観に来ていた相良を監視する二人組に、自分の方から、夜8時に家の裏門の所に来れば、家に泊まっている相良に会わせてやると申し出る。

実は、ミステリマニアの康二は、手製の拳銃による遠隔操作での殺人を試してみたくて仕方なく、相良を標的として、その犯人をこの二人組に擦り付けようと企んでいたのであった。

一方、和美の方はと言えば、利夫に三角スピードクジを売り付けようとしていた。
聞けば、何と、ハート印が当れば、自分の処女を与える「処女券」なのだという。

そのハレンチな発想に憤慨しながらも、利夫は自分こそ、彼女を抱く権利があると信じ、券を買ってしまうが、後で開いてみると「スカ」だった。

さらに美也子はといえば、自分に何か話がありそうな運転手の石倉に、勝手に淫らな期待を抱き近づくが、そんな様子を、ちょうど家を逃げ出そうとしていた相良に目撃されてしまう。

後で分かった事だが、石倉の話とは、何の事はない、妹の裏口入学の相談だったのだ。

長男の圭一は、ルパンの女給のきょう子を裏山に呼び寄せてはみたものの、又いつものように、妄想に耽るだけで、声をかける事すら出来ず、ルパンに戻って来てしまう。

しかし、そんな彼の妄言を聞いたママ(初井言栄)は、すでに、圭一がきょう子と関係が出来たものと早合点してしまう。

そんな心の中は不道徳家だらけの朝吹家から逃げ出すタイミングを逸した相良は、和美からスピード券を買わされ、自らの弱味を握られておびえる美也子には、あっさり朝吹メモを返してやる。

その夜、康二に言われた通り、朝吹家の裏門にやって来た二人組は、怪し気な人影が屋敷内に侵入するのを発見する。

その人影こそ、外れ券を引かされ、納得できない利夫が、和美の元に忍び込んで来たのであったが、その和美の部屋には、どうした訳かハート印を引き当てた相良が侵入していた。

とっさの判断で、利夫と和美の関係を見抜いた相良は、物音に駆けつけて来た両親に、二人はもう関係を結んでしまっており、世間体を取り繕うには、早く結婚させてしまった方が得策だと説得するのだった。

そんな中、康二の仕掛けた拳銃が発射するが、相良の布団はもぬけの殻で失敗。

しかし、屋敷に忍び込んでいた二人組は、その事がきっかけとなり、警察に追われる事になる。

この暗殺計画未遂の結果、相良の身柄は、街から離れた所にある、女優、大月優子の山荘に匿われる事になり、再び再会した相良と優子は、やっと互いのカバンを交換する事になる。

そんな山荘を訪れて来たのが、優子の元恋人(岡田真澄)、ドンファン気取りの彼は、再び、優子に迫ろうとするが、そんな彼をノックアウトしたのが、その場で様子をみていた相良だった。

彼は、いつか読んだ優子へのファンレターの数々で、彼女がそんな男たちにうんざりしていたのを知っていたからであった。

真面目な道徳を説く政治家だとばかり思っていた優子は、相良の意外な男らしさにびっくり。

そんな優子の心を見透かしたかのように、相良は、彼女を有無をいわさず抱き締めるのだった。

その頃、山城駅には、本物の相良が、ようやく独力でたどり着いていた…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

週刊明星に連載されていた三島由紀夫原作の映画化。

タイトル文字も含め、柳原良平氏によるタイトルアニメから、踊る女の足元越しに、バーに座った三島由紀夫本人が振り返って、観客側を見る所までの冒頭部分が、なかなか洒落ている。

三島由紀夫は、映画のラストにももう一度登場して、オチを言う。

内容は、国からの補助金目当てに、道徳モデル都市選定の目的で視察に来る国会議員を持て成そうとした街の偉いさんたちが、その国会議員に化けた悪人の目によって、すべて裏側を暴き出されるという、ブラックユーモアものになっている。

国の補助金目当てに、地方都市があれこれ視察団を接待でごまかそう…というアイデア自体は、山本薩夫監督の「台風騒動記」(1956)に似ているが、この当時は、そうした事があちこちで実際にあったのであろう。

悪人と政治家の二役を演ずるのは大坂志郎だが、彼、確かに真面目な政治家には見えるが、女にモテモテのルパン3世みたいなプレイボーイ型の大悪人にはちょっと見えない。

しかし、逆にそこが意外性となり、この作品を、どこかとぼけた味わいに見せているのも確か。

後半、細い口ひげを貯え、クラーク・ゲーブル風のいかにもプレイボーイに扮したファンファン(岡田真澄)と大坂志郎の対比も面白くなっている。

地方の、いかにも気の弱い男たちを演ずる柳沢真一や長門博之の姿も、情けなくて愉快。

悪役のイメージが強い高品格が、消防署長を演じているのもちょっと珍しい。

あまりに若くて、ちょっと見、誰だか分からない、月丘夢路や初井言栄なども新鮮。

中でも、よろめき婦人を演ずる三崎千恵子など、後年の寅さんのおばちゃんのイメージとあまりに違うので戸惑うくらいだが、風貌自体は実はあまり変化していないので、奇妙なおかしさを覚える。